臨床研究グループ

重症心不全に対する心筋再生医療

―自己心臓由来幹細胞を使った、重症心不全患者への心筋再生を目指して―

重症心不全に対する治療の限界

 我が国の死因統計をみると、心疾患で亡くなる患者はガンに次いで第2位であり、その中でも一番の死因が心不全となっています。心不全とは、その名が示す通り心臓の機能が低下し、必要な血液を体全体に送り出すことが出来なくなった状態を指します。心不全を引き起こす原因は1つではなく、虚血性疾患、弁膜症、感染症、先天性疾患など患者によって様々なため、治療法もそれぞれに合ったものが選択されます。しかしながら、心不全が重症化すると一般的なお薬や手術では回復させることは困難で、最終的には心臓移植しか患者さんを救う方法はありません。その心臓移植も、深刻なドナー不足から患者さんの多くは移植を断念せざるを得ない状況が続いています。

幹細胞を使った心臓再生の可能性

 2004年頃から、私たちは、心臓の中に存在する様々な細胞に分化する能力を持った細胞、心臓幹細胞を臨床応用するべく研究を続けてきました。心臓幹細胞は極めて高率に心筋細胞に分化することが可能な体性幹細胞というものであることが分かっています。私たちはこの心臓幹細胞を、どうしたら心臓から安全に採ってくることができ、さらにその能力を保ったまま増やすことが出来るか、ということを中心に研究を重ね、現在では心筋生検というカテーテルを用いた方法で得られた極少量の心臓組織からでも心臓幹細胞を大量に培養することが出来るようになりました。
 私たちは、ヒトへの臨床応用を前に、心臓幹細胞移植による心筋細胞再生が本当に効果を見込めるかどうか、心筋梗塞を起こした100頭以上のブタを使って検証しています。その結果、移植した心臓幹細胞はちゃんと心筋細胞に分化し、心臓の機能も改善しました。心配されたガンなどの副作用もなく、自分の細胞を使うことから拒絶反応もないということで、とても有効な治療法であると考えています。以上の結果は、論文にして世界にも報告いたしました。

当院で行われた心筋再生医療の臨床試験

 心臓幹細胞に対するこれまでの研究成果を基に、私たちは、虚血性心疾患が原因で重症心不全に陥っている患者さんへの心筋再生医療を臨床試験という形で行ってきました。実際の治療の概略としては、事前に心筋生検で患者さんの心筋組織を少量採って心臓幹細胞を1か月ほど培養して増やした後、心臓バイパス術の際に梗塞部位に心臓幹細胞を注射で移植します。血管新生を促すためにbFGFと呼ばれる血管増殖作用を持つサイトカインを封じ込めたゼラチンシートを移植した部位に張って手術は終了します。ゼラチンシートは1か月ほどで吸収されてなくなります。以上のように外科的手術と同時に行う治療法であるため、重症な心不全に苦しんでいる患者さんの中でも心臓バイパス術の適応のある方しか対象にすることが出来ませんでした。この臨床研究は平成24年2月に予定されていた6例の手術がすべて終了しており、今後、中長期を含めた安全性の評価を行い国に報告することになっています。ここで安全性が認められればより多くの重症心不全患者さんにこの治療を受けて頂けるのではないかと期待しています。将来的は今の適応をさらに広げ、是非とも多くの心不全患者さんに心臓幹細胞を使った心筋再生医療を安全に受けて頂けるようになれば、と考えています。

今後の心筋再生医療については

 重度の心臓病に苦しむ患者様によいお知らせをお伝えできるよう、私たちはさらに研究を続けていきます。
今後の心筋再生医療のスケジュールについては進展があり次第、HPで発信いたします。
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関連リンク
研究グループ:循環器内科部門 心筋再生医療グループ

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