人口の高齢化や生活習慣様式の欧米化に伴って、我が国の末梢動脈疾患は、年々増加しています。これらの患者さんに対する治療として危険因子の除去、運動療法、薬物治療、経皮的血管形成術や外科的バイパス術が行われています。しかし、下記のような重症例や治療困難例も、増加の一方です。 また、依然として難病であるバージャー病や膠原病に伴う重要虚血肢の患者さんも多くおられます
血管再生治療部門
1、重症の血流低下を認める。
手や足の指が、安静時でも痛みを伴ったり、潰瘍・壊疽などを認める
2、既存の治療が困難である。
血管狭窄部位が末梢血管(細い血管)のため、手術や風船の治療ができない場合
3、既存の治療に抵抗性である。
治療しても血管の再狭窄を繰り返す場合
人間の骨の中(骨髄)には、血管内皮細胞、心筋細胞、平滑筋細胞などの心血管系構成細胞の幹細胞が含まれ、この骨髄に存在する幹細胞を用いた血 管再生が循環器医療に応用されています。骨髄単核球の虚血下肢治療への有効性の基礎研究・臨床研究をもとに、私どもは、他施設共同研究で、 115例の患者さんの3年間にわたる有効性、安全性、長期予後を報告しています。(Am Heart J 2008:156:1010-1018).
これらの結果をもとにより多くの患者さんに安全で効果のある、患者さん自身の骨髄細胞または末梢血単核球細胞を用いて、従来治療に抵抗性で、潰瘍を伴うような重症下肢虚血病変に対し血管再生(血管新生)治療を行ってまいりました。
自分の細胞を使うため拒絶反応がないこと、細胞をそのまま使うため安全である事が最大の特徴です。 また、他に治療法がないと紹介された患者さんのうち末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)で6-7割、バージャー病で9割の方が、効果(治療後疼痛の軽快ー消失、潰瘍の軽快ー消失、歩行距離延長)を認めています。
具体的には、下肢血管に対する従来の内科的外科的治療抵抗性の患者さん(図1)に対して、適応基準(表1)を満たす場合、骨髄から細胞を採取精製し、虚血部位に筋肉注射にて細胞を移植するものです。(図2-4)最近の循環器治療は目覚ましく進歩し、多くの患者様の生活の質も量も向上したといえます。しかし、いまだ未解決な重症虚血疾患で困っている患者さんが多いことも現実です。安全性と効果の結果に基づいた先進的医療を実践する事こそ私達の使命です。 下記に診療までの具体的手順をお示しします。
効果(治療後疼痛の軽快ー消失、潰瘍の軽快ー消失、歩行距離延長)を認めています。
バージャー病に対する骨髄単核球細胞を用いた血管再生療法について
※ バージャー病に伴う重症虚血肢の患者様へ。
薬物治療や血行再建術等の従来の標準治療に難治性で、虚血症状の改善を認めない最重症の症例に対し、微小な末梢血流を新生させることで多くの重症虚血肢患者の大切断が回避できております。特にバージャー病や膠原病に伴う血管炎などの非動脈硬化症例に対しては、より効果が顕著であり、本治療後10年間における大切断回避率は80%以上であると報告されております。また、長期の生存率については、従来の治療群と比べても生存率は改善しており、安全性の面でも問題なく治療が施行されております。
今回、本治療のさらなる有効性を評価するため、先進医療Bとして「バージャー病に対する自家骨髄単核球細胞を用いた下肢血管再生療法」の多施設共同臨床試験を行うことを、厚生労働省より2017年10月1日に認可頂きました。(図5)
本試験に登録をいただいた患者様には、血管再生療法費用(約30万円)は必要ですが、入院期間中の諸費用は全て保険診療と併用可能です。
また、血管再生治療後の入院も当院にて経過をみていくこととなります。
難治性の潰瘍や安静時の疼痛等の症状にお困りの際は、血管再生療法の適応かの判断も含め、詳しくは当院までご相談ください。

図5
骨髄単核球細胞を用いた血管再生療法をお考えの方へ
※ 動脈硬化症や膠原病疾患に伴う重症虚血肢の患者様へ。
先進医療Bへの移行申請に伴い、 2017年1月以降、本血管再生療法は先進医療として施行することができなくなりました。
ただ、本治療を必要とされる症例は多々認めており、バージャー病以外は2017年10月現在、自費診療で対応しております。
随時、疾患毎(閉塞性動脈硬化症、膠原病)に先進医療Bの申請を行っており、今後も先進医療として治療を継続し、いづれは本治療の保険収載を目指しております。
それまでは、本治療の適応を満たし、現在の治療では難治性の重症虚血肢症例に対しては、患者様と個々に相談を行い、ご了承を頂けましたら自費診療として本治療の提供を継続していきます。
ただし、血管再生療法費用(約30万円)や全身麻酔費用(約18万円)、及び入院期間中の諸費用が全て自費となり、4~5日間の入院で、約80~100万円の費用が必要となります。自費診療中は、自己負担を軽減するため、以下の方法で治療を検討しております。






京都府立医科大学 医学部附属病院 循環器内科 受診をご希望の場合
1.主治医の先生とご相談の上、主治医の先生から地域医療連携室を通して外来受診予約をしてください。
また、本血管再生療法の対象かどうかわからない場合、専門機関に相談されるか、主治医の先生から 下記にご遠慮なくご相談ください。すぐにお返事できない場合も折り返しご連絡致します。
京都府立医科大学 附属病院循環器内科 TEL075-251-5511 FAX 075-251-5514
(直接受診相談される場合、予約がないと、かなりの待ち時間が予想されるため事前のご予約をお勧めします。)
2. 本血管再生治療の対象である場合
術前検査として、主に下記の確認または検査を紹介病院や当院で行っています。
- 心臓の冠動脈に問題はないか?適切な治療が施されているか?
冠動脈CT検査、運動負荷心筋シンチグラム検査または血管撮影など 下肢血管疾患の多くの方が、心臓や脳への血管の病気を合併しているため、まずこちらの検討が重要です。事前の検査が義務付けられています。 - 現在治療の必要な悪性疾患はないか?
内科的診察以外に 胃カメラ、便潜血検査、CT(胸・腹部できれば造影検査)、腫瘍マーカー(CEA, CA19-9、PSA(男性)、CA125(女性))
私どもの検討では、血管再生治療で悪性疾患の発症増加は認めていませんが、事前の検査が義務付けられています。上記はあくまで当院の検査参考例ですが、人間DOCや他の検査で代用したり、上記検査結果によって陽性の場合は、専門科に受診していただく事もあります。(完全に悪性疾患の除外はできないので、上記検査はあくまで参考です。) - 糖尿病性網膜症があった場合、適切な治療はなされているか?
私どもの検討では、血管再生治療で網膜症悪化は認めていませんが、事前の検査が義務付けられています。 - 虚血部に感染はないか?
血流の少ない組織では、感染を起こした場合、急速に悪化しやすく、全身状態に影響をおよぼします。現段階では再生医療の効果が発現までに時間を要すること、また下記⑤の理由により感染がコントロールできない場合は、下肢切断を考慮する必要があります。感染を疑う場合、早急に担当主治医または皮膚科、整形外科での診察で確認してください。 - 炎症症状はコントロールできているか?
私どもの検討では、局所または全身の炎症が強い場合、再生医療に使用する細胞にも炎症を惹起する細胞成分が多く、血管再生医療が困難です。(当院参考値CRP 5mg/dl以下) たとえ感染がなくても、血流が少ないことによる虚血性炎症がある場合でも炎症のコントロールが必要です。
紹介病院や当院でのこれらの検討後、入院と実施日を決定します。
3. 本血管再生療法療の対象でない場合
現段階(2017年10月)で81歳以上の方や他の疾患に伴う血管再生医療は、先進医療の対象 にはなっていません。
このような方も当院の外来に通院や相談に来られています。私どもで、できる限りの助言や治療ができればと考えています。
その場合も、ご遠慮なく主治医の先生を通して当科にご相談ください。
骨髄単核球細胞を用いた血管再生療法の追跡研究
当院にて本治療を施行された全132例(閉塞性動脈硬化症:80例、バージャー病:22例、膠原病:28例)を対象に10年間の追跡結果を解析しました。
既存の治療では切断を余儀なくされていた難治性症例を対象としておりますが、閉塞性動脈硬化症でも10年間の大切断回避率は7割程度と高く、特にバージャー病や膠原病による虚血肢症例に対しては8割以上の症例で大切断の回避が認められました。
また、約10年間の全生存率もバージャー病にて9割程度と良好な安全性が示されております。
ただ、重症虚血肢は予後が悪い疾患といわれており、感染や心血管イベントによる死亡例も多く、さらなる生存率や大切断回避率の改善は、今後我々に課された宿命であると考えます。
