肺高血圧・肺循環グループ
概要:
肺高血圧症はさまざまな原因により、右側の心臓から肺への血管(肺動脈)の圧が持続的に上昇した状態で進行すると右側の心臓が弱ってくる難治性の病気です。近年になり治療薬の進歩で生命予後は改善したものの重症例においてはいまだに不幸な転機をとることが多いのが現状です。
肺血管は予備能が高く60%以上が閉塞しないと肺動脈圧は上がってきません。すなわち、息切れ症状が出現する頃にはすでに病状がかなり進行していることを示唆しています。肺血管障害が軽い早期の状態から治療を行うことで治療成績が良くなると報告されており、可能な限り早く、適切な時期にしっかりと治療を行うことが何よりも重要であると言えます。
分類:
肺高血圧症はその成因によりいくつかのグループに分類されており、現在ではニース分類により5群に分類されています(下記)。
ご覧いただけるようにグループ1の原因には特発性以外に膠原病や門脈圧亢進症、先天性心疾患などがあり、またグループ3も肺疾患を原因とする肺高血圧症であり、循環器内科のみでは決して治療を完結することができず、各専門家との綿密な連携が重要となります。
大学病院である当院では各分野の専門家が在籍しており、それぞれの専門科と合同カンファレンスなどを開きながら連携を図り、患者様ごとのオーダーメイド治療を行っております。
治療:
肺高血圧症に対し詳細な検査を行ったのちに、その病態や重症度に合わせ治療法が選択されます。
- 内科的治療
- 酸素療法:在宅酸素療法
血中酸素濃度の低下は肺血管を収縮させ肺高血圧症を悪くします。肺高血圧症の方は低酸素状態に慣れていることがあり、自覚症状に乏しいこともありますが、状態をみて酸素療法の導入を相談いたします。
- 右心不全治療薬:利尿薬etc
右側の心臓が弱ることで、むくみが出たり体液貯留(胸水、腹水など)が出現したりするため、負担を減らすために場合により体液容量を調整する利尿薬を投与します。
- 肺血管拡張薬:Ca拮抗薬、PDE-5阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬、経口PGI2誘導体、エンドセリン受容体拮抗薬、PGI2持続静注etc 上記薬剤を病態に合わせ選択し、場合により併用しながら治療を行っていきます。重症のPAHにおいては内服薬のみでは症状の改善や予後改善には不十分であり、そういった症例に対してはエポプロステノールの在宅持続静注療法が施行されます。エポプロステノールは極めて強力な肺血管拡張作用を有する薬剤で、最も実績がある肺高血圧症治療薬です。体内半減期が極めて短いため、皮下トンネルを通して体内に留置された中心静脈カテーテルより正確に一定量の薬剤を投与することが必要になります。内服薬の進歩した現在においても重症肺高血圧症の中心的な治療法の一つであり、在宅での管理が可能です。近年では持続静脈投与だけでなく持続皮下投与が可能なトレプロスチニルが日本でも使用可能となり、治療の選択肢が広がってきています。
- カテーテル治療
グループ4に分類される慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は固くなった血栓(器質化血栓)により肺動脈が細くなったり、閉塞したりする病気です。その原因はいまだ解明されておらず、特定疾患治療研究事業対象疾患(指定難病)に指定されています。以前はCTEPHに対しては手術(肺動脈血栓内膜摘除術)以外に有効な治療法がありませんでしたが、近年になりカテーテルによる治療(経皮的肺動脈バルーン拡張術:BPA)が可能となり、当院でもカテーテルによるBPAを行っております。当院の特徴としましては、造影だけでは見つけることが困難な器質化血栓に対して血管内視鏡を併用して正確な血栓の存在診断を行い、不要なバルーン拡張を減らす取り組みを行っております。実際に治療成績も向上し自覚症状の改善が得られております。
- 外科的治療
肺高血圧専門センターとも連携を取り治療を行っております。中枢型のCTEPHに対して肺動脈血栓内膜摘除術が必要な患者様に関しては、日本有数の肺高血圧症専門センターである国立循環器病研究センターと手術適応などを検討し適宜ご紹介させていただいております。また、治療薬が進歩した現在においても重症肺高血圧症の最後の治療は肺移植であり、肺移植が必要な患者様に対しても近くの京都大学と連携をとり症例を紹介させていただいております。
最後に:
初期の肺高血圧症は自覚症状が非常にわかりにくく見過ごされていることが多くあります。息切れ症状が強くなった時にはすでに病状が進行してしまっています。早期発見・早期治療がその後の運命を決定するため、ハイリスク患者様のスクリーニングはもちろんのこと、少しでも自覚症状のある場合にはまず疑うことが重要です。 心電図や心臓超音波検査にて非侵襲的にスクリーニングすることが可能ですので、労作時息切れ・易疲労感・動悸・胸痛・失神などの自覚症状がある方は一度主治医の先生にご相談ください。当院に受診希望がありましたら紹介や受診していただければ診断・治療を行わせていただきます。 日頃医療に従事されておられます先生方々におきましても肺高血圧症が疑われる患者様がいらっしゃいましたら、下記連絡先までご連絡いただければ対応させていただきますので、よろしくお願いいたします。
京都府立医科大学大学院医学研究科 循環器腎臓内科学 助教 中西直彦(文責)
外来日:木曜日