心音心機図は1950-60年代に盛んに記録され心疾患の理解によく用いられてきたが、心音計の退縮により記録される場面は著しく減少していた。しかし近年フクダ電子からポータブルデジタル心音心機図計が開発、発売されるにいたって再度光が当たってきている。そもそも循環器診療におけるフィジカルイグザミネーションの重要性は語るまでもないが、その正しい学習において心音心機図を見ながら行うことは極めて重要である。
心音心機図グループ
研 究
現在白石を中心に数名の循環器内科医師、生理検査技師で心音心機図に関する臨床リサーチを行っている。現在の弁膜症は過去に心音心機図が検討された時代とエチオロジーが大きく変化しており、今日における心音心機図評価は重要なテーマである。当院の心臓血管外科は本邦有数の心臓血管外科チームであり、入院中の各種弁膜症の術前術後評価を行うことでその特徴を調査している。また、ASD閉鎖がカテーテル的に行えるようになったことを踏まえその前後の評価、CAVIなどの生理検査指標との関連の検討、CRTのResponderの予測などの取り組みを進めている。年間200件を超える心音心機図の記録を行っており、症例も蓄積され詳細な検討が可能となって論文投稿ができるまでになってきた。
教 育
年に1-2回、フィジカルイグザミネーションに関する研究会を継続しておこない、本邦を代表するフィジカルイグザミネーションの専門家とBrushUpを図っている。研修医、若手循環器内科医の積極的な参加を促し循環器の基礎教育にも生かしている。
学会活動
心臓病学会を初めとして学会発表は年間数題のペースで継続的に行ってきている。また同学会が協賛する神戸フィジカルイグザミネーション講習会には定期的に参加させていただいて症例を持ち寄らせていただいている。
本邦の中でも心音心機図の研究を行う教室は極めてまれである。現在の心エコー図を代表とするモダリティとの対比において、フィジカルがきちんと評価できることは循環器を専門にする医師のいわゆる“技術”なのであり、疾患を見逃さないばかりか、日常の患者フォローにおける不必要な検査を減らす効果が報告されている。 是非、興味のある方は白石裕一までご連絡いただければと思います。お待ちしております。
重症AS
84歳女性。収縮期雑音は何によるものだろうか。重症度はどうだろうか。


頸動脈波形は著明な遅脈認める。Shudderははっきりしない。駆出音もないと考える。心尖部のlow pitchでⅣ音を認めるが心尖拍動図のA波は収縮期の陽性波とくっついて判然としない。Ⅲ音はなし。収縮期雑音は最強点2R付近で記録されるが心尖部も含めほかの部位でも大きく聞こえる。Ⅰから少し遅れて始まり漸増漸減型の形態を示し、late peak、ⅡA付近で終了している。ⅡAは減弱。遅脈の程度やⅡ音減弱などからSevere ASを疑う。軽症のASはⅡ音が保たれ、雑音のPeakも早いことが多い。 収縮期雑音の鑑別としてVSDやMRは頸動脈での遅脈を示さない。最強点やⅢ音の有無なども鑑別の参考になる。ちなみにASの収縮期雑音はA弁口領域ではなく心尖の方まで聞こえることに注意。ASでは頸動脈、鎖骨下動脈への雑音の放散を伴うことも重要な所見である。
#重症大動脈弁狭窄(エコーではA弁圧較差 136mmHg、左室EF 48%、LVHあり)