学長主催講演会
Human Genome Project -write:Responsible Innovation, From Observation to Action
Jef Boeke: Director, Institute for Systems Genetics, Professor, Dept. of Biochemistry and Molecular Pharmacology New York University Langone Medical Center,
Dr. Boekeはレトロトランスポゾンの機能と遺伝に関する研究において著名な業績を挙げ、遺伝学や合成生物学の様々なテクノロジーを開発されてこられました。宿主生物のゲノム上を動くことのできるDNA Elementであるレトロトランスポゾンはヒトゲノム全体の42%にも及び、その存在の働きを解明する世界的なリーダーとして数多くの知見を発表され続けています。そもそも、このRetrotransposionという用語は、Dr. Boekeが酵母におけるTranspositionと呼ばれるDNAの移動を探求される中で、Ty1 elementと呼ばれる配列がRNAの逆転写によって移動するということを発見され、このプロセスに対して命名されました。その後も、酵母のみならず、マウスや哺乳類の細胞でこのRetrotransposionという現象に関わる複雑な分子生物学的メカニズムの解析を精力的に行なってこられ、高い活性を持ったRetrotransposonを合成することにも成功されています。
更に、世界で初めての真核生物の全ゲノム合成の国際共同プロジェクトである酵母全ゲノム合成:Sc2.0を指揮しておられます。Synthetic Biologyという領域が出現して、その一つの側面であるSynthetic GenomicsがCraig Venterらの合成バクテリアゲノム、George ChurchらのE.coliゲノムの作出という形で現れる中で、14Mbpsに及ぶ16のクロモゾームを有するSaccharomyces cerevisiaeのゲノム合成は真核生物における初めての実証となります。
本年6月にScienceのPolicy ForumにDr. Boekeが寄稿したHuman Genome Project-writeは、Next Generation Sequencing の開発の核心を支えてきたG. Church と共に、このSynthetic Genomicsをヒト細胞全ゲノム合成のコストダウンに向けて応用することで、ゲノムをただ観察する時は過ぎ、築き上げる時代が到来しているとの強いメッセージでありました。
本講演では、社会との対話に極めて重きを置いているHGP-writeの目指しているものを、そのリーダーであるDr. Boekeの言葉で聞ける貴重な機会であります。是非とも多くの方々のご参集をお願い申し上げます。
Boeke JD, Church G et. al. GENOME ENGINEERING. The Genome Project-Write. Science. 2016 Jul 8;353(6295):126-7. 2.