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進むべきみちを迷っているあなたへ

 学生や研修医のみなさんは今後の進路に迷うと思います。これは当然のことで、思いっきり迷い、悩み、考えてください。一生を左右することなのですから。ただ、我々の頃とは違ってあなた方は途中での進路変更が随分自由になっています。若いうちに3年ほど救急や集中治療をやってから専門の科に進むことも可能です。どの医局も途中参加大歓迎なのです。むしろ色んな経験を積んできた人のほうが臨床の幅が広がり新しいアイデアも出せる可能性があります。えいやっと1つ決めて飛び込んでも、いまひとつ自分に合わないと感じたり、お腹一杯になり他のことをやりたくなってもオッケーです。 でもそんな貴方がたにいくつかのヒントを差し上げます。

様々な科をいくつかの側面からみてみましょう。自分に問いかけてみてください。

  • メジャー系かマイナー系か?
  • 内科系か外科系か?
  • 臨床か研究かそれとも両方したいのか

この3つはありふれた選択肢ですね。これをもう少し言葉を変えてみましょう。

  1. 手術を含めた手技がしたいのか純粋に内科的な仕事がしたいのか、両方したいのか?
  2. 全身管理ができるようになりたいのか局所だけでいいのか?
  3. 急性疾患がみたいのか慢性疾患を長く診ていきたいのか?
  4. 1人の患者さんと長く付き合いたいのか、一期一会で良いのか、人付き合いは苦手か?
  5. 急変時に対応できる医師になりたいのか否か
  6. 悪性疾患(癌)と闘いたいのか、動脈硬化と闘いたいのかそれ以外か?

 1) 色んな手技をするのは楽しいですよね。ともかく切るのが好きという外科の先生の気持ちは大変良く解ります。外科だけじゃなくて眼科だって皮膚科だってopeはありますし、思い通りの手術ができたり自分の術式を開発できたらどんなに素晴らしいでしょうか? ただし、現在は外科は低侵襲で内視鏡手術が盛んになってきていますし、内科は内科で内視鏡でごっそり胃癌を取ってきたりカテーテルで治療をしたり、いわば外科の内科化、内科の外科化が進んでいるのですね。カテーテルインターベンション専門の脳外科医がでてきたり。我々内科系というくくりでみると最も手技が多いのは消化器内科と循環器内科でしょう。要するに『内科系に行きたいけど手技もしたい』ひとにとってはこの2つが候補になってきます。実は腎臓内科も透析や体外循環というテクニックのプロという側面もあるんですよ。血液内科の先生には骨髄移植がありますし、白血病の人を化学療法で完全寛解に持ち込んだらこれはこれですごい達成感があるんですよね。

2) 私が経験的に全身管理ができるなあと思う科は、内科は多くの科ができますしメジャーと言われる外科もできないと仕事にならないんですよね。その他は麻酔科の先生もできますが急性期しか興味ないですから。眼科や皮膚科はやっぱり難しいですし、整形外科や泌尿器科の先生も意外と全身管理できる先生は少ないですね。人の生き死にに関わる職業につきたいと思うのであればやはりメジャー系の科に進むのが無難だと思います。 全身管理といっても多少の差はあります。腎臓内科や循環器内科は水分バランスには長けていますし栄養管理は当然消化器系の科の先生には敵いません。

3) 急性疾患か慢性疾患か、両方か? 4) 長く付き合う?一期一会?  これは勿論どの科でも両方ある訳ですが比重の問題ですよね。また自分の生活スタイルとして夜中に呼び出されるのは絶対にイヤだとかもあるわけです。比較的マイナー系と言われる科では少ないと思います。究極の急性疾患対象の科というと救急医があります。北米型ERの病院ですと救急医が全ての患者を診るわけです。これはこれでやりがいがあると思いますし主治医制ではなく時間制になれば時間外に呼び出されることもありません。外科の先生は自分が手術をしたかたをその後も化学療法したり外来で経過をみたりするので1人の患者さんと長い付き合いになることもあるのですが、やはり心のなかでは外来の比重は軽いです。すべて手術が中心で、術後フォローがしたいから外科をやっている人はいません。化学療法をやりたければ内科にいくのが筋だと思います。 内科系の科を考えるとやっぱり急性疾患が多いのは消化器と循環器ですね。糖尿病内科や膠原病内科はやっぱり慢性疾患中心で長い目で経過を追っていくという、ちょっと地味なんですがやりだせば面白いと思います。循環器内科は心筋梗塞や心不全の急性期なんかはやっぱり花形ですが、落ち着いたら慢性期のフォローになりますし、何遍も心不全で入院していた人がうまく治療すると長く入院せずに過ごせたりして、これはこれでDMやリウマチのコントロールに負けないぐらい面白いです。高血圧も含めてこれ以上悪くならないようにというのは予防医学の側面があります。私は元々人間相手の商売が一番面白いと思っていますし人付き合いが好きなので同じ患者さんと長く外来で付き合っていくことに魅力を感じているわけです。腎臓内科も慢性疾患中心であることは間違いないです。透析の技術が発展してきたおかげでなかなか患者さんが死なない。これからは何十年と付き合って行く訳です。ただ急性腎不全の治療は待ったなしですし第一日赤のK先生や第二日赤のN先生、近江八幡のH先生なんかはしょっちゅうICUに出入りしていて急性疾患のCHDFや吸着などの体外循環を回しており救急の治療に無くてはならない存在になっています。

5) 急変時に対応できる医師になりたいのか否か?  上記の内容とも重複しますがやはり医師たるもの全てが蘇生などの初期対応ができるようになるのは当然です。京都府立医科大学も全ての研修医が心肺蘇生ができるようにプログラムを改定中で、研修医には全員ICLSもしくはACLSの認定コースの受講を義務づける方向で準備を進めています。ただ、どうしても日常的に関わっている医師のほうに一日の長があるのは否めません。救急医、循環器系の医師は当然その機会が多いのです。麻酔科医・集中治療医はその道のプロと思われていますが、意外と蘇生をする回数が少ないのです。彼らはむしろ蘇生処置に至らないようにコントロールするプロなのです。また、蘇生に成功したあとの管理も彼らに優るものはいません。

6) 悪性疾患(癌)と闘いたいのか、動脈硬化と闘いたいのかそれ以外か?  死因の第1位はご承知のように癌などの悪性疾患です。私が医者になった当時は癌の患者に病名告知はしないことが多く、お互いに精神的な負担は大きいものでした。現在では病状告知が一般的になり、患者さんに嘘をつかなくても良いという面では進歩です。ただ当時、いや現在でも多くのかたが治らずに癌で死亡されます。健診の発達によって癌が早期に発見され早期胃癌は今では5年生存率は90%近いことは賞賛すべきことです。ただまだまだ治らない癌もありそういった患者さんを失うのは辛いものです。私が循環器内科を選んだ理由の1つは癌がないからだと思います。ですから『おれは癌と真っ向から闘うんだ』と思っているひとは引き止めません。ぜひ自分の信じる道を突き進んでください。 外科系の科の多くは消化器外科を筆頭に癌と闘っています。放射線科の先生もradiationを含めた集学的治療、癌の早期発見のために新たな診断法を開発することで癌と闘う人たちがいます。産婦人科も婦人科は癌を避けて通れません。例外は産科のみをしている先生でしょうか。ただ外科系でも整形外科は一部の先生を除いて悪性疾患とも動脈硬化とも無関係な先生が多いように思います。内科系の科でいうと消化器内科は当然癌と闘う科です。胃潰瘍と闘っている医師もいるとは思いますが癌は避けて通れません。呼吸器系の科も今や入院患者の8割が肺癌であり、COPDなどは少数派です。肺炎はあまりに数が多すぎて呼吸器科の医師だけでは間に合いませんのでどの内科医であっても相手をしなくてはなりません。また、血液内科の先生も白血病などの悪性疾患と闘っています。これらの科に進むということは悪性疾患と闘う覚悟が必要だということです。

 癌の次に我々医療人が闘わないといけないのは動脈硬化だと思います。これはある意味老化と闘うことでもあります。冠動脈疾患・脳卒中といったメジャーな疾患の急性期の治療は勿論、高血圧・メタボリック症候群などの動脈硬化予防の面からも今後ますますその方面の需要が高まっていきます。循環器内科、心臓血管外科、脳神経外科、神経内科も動脈硬化を避けて通れません。糖尿病内科もその症例の多くが心血管疾患で亡くなり広い意味で動脈硬化と闘う科で、決して癌と闘っているわけではありません。腎臓内科は腎不全と闘うのですがその多くは動脈硬化に起因しており、これも末期には心血管疾患で亡くなります。CKDは極めて強い心血管疾患の危険因子なのです。例外は小児科系の先生がたでしょうか。ただし小児科系は老化を除き、悪性疾患も含めあらゆる分野が含まれており、さらに健やかな発育を助けるというという特殊性もあります。その他、感染症と闘う、自己免疫疾患と闘うなど夫々の科で興味をそそる内容がありますがここでは割愛させていただきます。
 いかがでしたでしょうか?少しは皆さんが進むべき方向の道しるべになれたでしょうか?我々の教室である循環器・腎臓内科はともに手を取り合って動脈硬化性疾患と闘っています。急性期も慢性期もあり純粋に内科的な仕事もあり色んな手技もできる、さらにパートタイムでの就業も可能です。子育てしながら仕事を続けたい女性にとっては外来と心エコーで週2日勤務も可能です。腎臓内科であれば週2回の透析と外来という選択枝もあります。何しろともに他の科の先生が気軽に手を出しにくい印象があるようで(本当はそれほどでもないんですが)その専門性は仕事的には守られているように感じます。
もし動脈硬化と闘いたい、急性期も慢性期も診たい、手技も一杯やりたい、急性期のハラハラドキドキするような場面でも活躍したい、そして患者さんが助かって震えるような喜びを感じたい、そしてその患者さんと一生のお付き合いをしていきたいとお考えでしたら、是非我々の仕事を覗きに来てみてください。いつでも歓迎いたします。そしていつの日かあなたと共に働ける日が来るのを楽しみにしております。

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